オンライン発表会で「iPhone12プロ」を披露する米アップルのティム・クックCEO=同社提供
【シリコンバレー=白石武志】米アップルは13日、高速通信規格「5G」に初めて対応したスマートフォン「iPhone」の新機種を発表した。高速・大容量の通信が可能な5Gだが、スマホでの画期的な活用方法はなお見えず、インフラも未整備なまま。スマホ市場が低迷するなか、本命アップルの新製品投入で通信会社の投資が加速し、5G時代の到来を導くとの期待が高まっている。
5Gは2019年4月に米国と韓国で最初に商用化され、その後、日本でも20年3月に携帯電話各社がサービスを始めた。ただ、当初の5Gスマホは日本円で10万円を超える機種が中心で、20年1~6月の米国のスマホ出荷台数に占める割合は10%に満たない。スウェーデンの通信機器大手エリクソンによると、世界の5Gの人口カバー率は19年末で5%未満という。
英調査会社オムディアが6月に公表した各国の5G市場に関する調査で、5Gの周波数割り当てや通信エリアを分析した結果、19年末時点の進捗度は韓国が首位だった。米国が4位、日本は13位にとどまる。
英プライスウォーターハウスクーパース(PwC)によると、米国での5Gの人口カバー率は20年7月時点で60%にとどまる。21年1月までには米国の人口のほぼ75%が自宅や職場で5Gを利用できるようになると予測しているが、使える周波数帯や通信速度は地域によってまちまちだという。
日本国内の携帯電話会社の5G提供エリアも都市部に限られている。楽天を含む国内の通信4社が総務省に出した当初の5G基地局の整備計画は23年度末で計7万局だが、4Gの基地局は66万局超ある。全国に5Gを広げるにはまだ足りない。中国は20年末に70万局まで増やす見通しとなっている。
こうしたインフラ網の整備の呼び水になると期待されているのがアップルの5Gスマホだ。
「これですべてのピースがそろった」。13日のアップルのイベントにゲストとして登壇した米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズのハンス・ベストベリ最高経営責任者(CEO)はこう語った。
5Gスマホは、19年の世界シェア首位の韓国サムスン電子が同年4月に世界で初めて市場に投入。中国・華為技術(ファーウェイ)やソニーなども相次いで売り出していたが、iPhone12の発表によって主要メーカーの5Gスマホが出そろった形となり、「主役」の登場をこう喜んだ。
ベストベリCEOは同日から5Gの通信網を全米規模に広げ、1800以上の都市で約2億人が使えるようにしたと発表。iPhone12は発表と同時に5G整備網の投資加速を印象づけた。
「iPhoneにとって新時代の幕開けだ」。ティム・クックCEOは13日に公開したプレゼン動画の中でこう強調した。5Gは高速・大容量で遅延の少ない通信が特徴。医師が場所や時間を選ばずにスマホ上で複雑な医療用画像を確認できるようになったり、実験室などの設備のシミュレーションを効率的に進めたりと、5Gスマホならではの使い方を紹介した。
13日の発表会は、新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となったものの、過去最多の4機種の一斉投入という前例のない力の入れよう。画面の小さい「mini」の価格は699ドル(日本での税別価格は7万4800円)からで、歴代で最大の6.7インチの「Max Pro」は1099ドル(同11万7800円)から。価格に幅をもたせて幅広い顧客を一気に取り込む戦略を打ち出した。
米国では4機種とも「ミリ波」と呼ぶ高い周波数帯の5G用電波にも対応することで、理想的な環境であれば最大毎秒4ギガ(ギガは10億)ビットの通信速度を実現できるという。一般的な4G通信の約40倍に相当する速さで、大容量の動画ファイルなどを短時間でダウンロードできるようになる。
スマホ市場そのものがこの数年、成熟するなか、足元では新型コロナウイルスの影響で20年の世界のスマホ出荷台数が前年比10%減の12億台に落ち込むとの予想も出ている。アップル自身もシェアを落とすなか、今回の5G対応のiPhoneを打開の切り札とみる通信会社は多い。
今回の4Gから5Gのように約10年周期で訪れる通信規格の更新は、旧機種のユーザーに買い替えを促す要因にもなる。米証券会社のウェドブッシュは今後1年から1年半でiPhoneユーザーの4割近くが機種変更し、アップルが「スーパーサイクル」と呼ぶ数年ぶりの好況を迎えるとみている。
ただ、映画やゲームなどを短時間でダウンロードできるだけなく、5Gならではの使い道を消費者に示せるかもカギを握る。13日のアップルのイベントでも、具体例として米ライアットゲームズの人気ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」をiPhone12向けに配信すると発表した。高速通信によるなめらかなゲーム操作をうたうが、既存のサービスの延長線にとどまる。
基地局の整備によるサービス向上に加え、いかに5G普及の起爆剤となる「キラーアプリ」を提示できるか。5Gの利点を消費者が感じられるようなしかけ作りも必要となっている。
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